こんにちは松村です。

今回は不動産売却における「現状渡し」という言葉についてご紹介したいと思います。

「現状渡し」というのは意味的にはほぼ字面のまんまで、それほど難しい言葉ではありません。

しかしながら、この現状渡しを採用する取引において注意しておいた方がいいポイントもありますので興味のある方は是非、最後までお付き合いになって下さい。

それでは次項より早速、本題に入って参りましょう。

現状渡しとは?

不動産売却における「現状渡し」とは、不動産を売却する際に、売主が不動産をそのままの状態で買主に引き渡すことを言います。

たとえば中古の家を売却する際に屋根がずれていたり、外壁にひび割れがあったりしても売主側で特に補修などをする必要はなし。

そのままの状態で買主に引き渡せばOKということです。

家売左

実際にはほとんどの不動産売買取引が現状渡しでなされます。

家の中のものは基本、売主が持ち出す

なお、「現状渡し」などというと建物の中にある家財道具などについても残したままで引き渡すのかと誤解する方がいらっしゃるかもしれませんが、もちろん、そんなことはありません。

基本的に売主が必要なものについては引っ越し先に持っていきますし、不要なものについてはゴミとして廃棄するなど処分が必要です。

ただし、例外的に買主が購入後、建物を取り壊す予定の場合などには買主側の了承があることを前提に不要な家財道具を残したままの状態で引き渡しを行うことがあります。

この場合は建物の取り壊し業者が家財道具が残ったままの状態で建物を取り壊し、建物の残骸と一緒に処分してくれることになります。

不要な家財道具をこちらで処分するとなると手間がかかる上に費用もそれなりにかかりますので買主が建物を取り壊すがことがわかっている場合には、不要な家財道具を残しておいていいか交渉してみましょう。

「現状渡し」のメリット

不動産売却における売主にとっての現状渡しの最大のメリットは、ずばり手間がかからないことです。

不動産の故障個所について売主の側で修繕等を行わなければならないとしたら手間がかかって仕方がないですからね。

また売主側で故障個所について修繕した上で引き渡すこととした場合、修繕の内容について買主との間で揉めることだって考えられます。

せっかく費用をかけて修繕したのに、その内容が気に入らないからといって、やり直しを求められたりしたら、たまったものじゃないですよね。

そういった面倒ごとやトラブルを避ける意味でも「現状渡し」を選択する方がスマートであるということです。

実際の取引現場でも少なくとも売主さんが一般の方である場合には「現状渡し」とすることがほとんどです。

家売左

長い間、住んでいれば家に様々な不具合や故障個所が出てくるのは、ある意味、自然なことです。また、売買価格もそれに応じたものとなっているはずですので、あまり気にせず、現状渡しにしてもらえれば結構かと思います。

「現状渡し」のデメリット

売主の側から見れば現状渡しのデメリットは、基本的にはありません。

ただし、不動産売買契約に契約不適合責任(契約不適合責任の内容については次項の説明をご参照ください。)を排除する特約を置かなかった場合、引き渡した不動産に何らかの不具合・故障個所があれば、買主から修補や損害賠償の請求を受ける可能性があります。

このデメリットを避けるべく、必ず契約不適合責任を排除する特約を置くようにして下さい。

契約不適合責任とは

契約不適合責任とは引き渡された目的物が種類・品質・数量などにおいて契約の内容に合致しない場合に引き渡し債務者が負うことになる責任のことを言います。

不動産の売買契約においては主に不動産の品質が契約の内容に合致しない場合に売主が買主に対して負うことになる責任のことと考えてもらえばよいでしょう。

数量(土地面積や建物面積)が契約の内容に合致しないことも時々ありますが今は公簿取引(実際の面積ではなく、登記簿等の公簿の面積で取引を行うこと)が主体ですから、あまり問題にはならないと思いますので。

たとえば居住目的で売買された中古戸建が耐久性の問題などにより居住することが困難な状況にある場合、売主の負担と責任において居住することが可能な状態となるよう修繕等をしなければならないということです。

契約不適合責任の内容

引き渡した不動産が契約の内容に合致しない場合、売主は買主から以下のような方法で責任追及される可能性があります。

  1. 修補請求(追完請求)
    引き渡した不動産を契約内容に合致するように修補せよと請求されるということです。
  2. 代金減額請求
    上記、修補請求に応じない場合、代金減額請求を受けることもあります。
  3. 損害賠償請求
    さらに買主に損害が発生すれば損害賠償請求を受けることもあります。
  4. 契約解除請求
    修補請求に応じなければ、売買契約を解除されてしまうこともあります。
    その場合、当然、売買代金を返還しなければならなくなります。

契約不適合責任は排除できる

既にお伝えしているとおり、宅建業者や事業者でない一般の売主の不動産売買契約における契約不適合責任は特約で排除することができます。

たとえば契約書に

「本売買契約においては契約不適合責任を排除する。
よって買主は引き渡された目的物に種類・品質・数量などにおいて契約の内容に合致しない点があった場合にも売主に対して修補・代金減額・損害賠償・契約解除など一切の請求をなしえないものとする。」

などといった特約を明記しておけば、その責任を免れることができるということです。

買主さんから事後的に責任追及されることを確実に避けるためにも契約不適合責任は排除しておかれることを強くおすすめします。

売主さん

損害賠償請求を受けたり、契約を解除されたりしたら大変だ。絶対に契約不適合責任を排除する特約を入れてもらわないと。

瑕疵担保責任とは何が違う?

契約不適合責任が定められたのは2020年4月の民法改正時です。

それ以前にはよく似た規定として瑕疵担保責任というものが置かれていました。

瑕疵担保責任については「隠れた瑕疵(通常の注意では買主が気づけなかった不具合や故障)」が責任の対象とされていましたが、契約不適合責任では、この「隠れた」という要件が外されています。

つまり隠れていようが、隠れていまいが、売買取引の目的物である不動産に不具合や故障個所があり、それがために不動産が契約の内容に合致しえない状況にある場合には売主が責任を負わなければならないということですね。

家売左

瑕疵担保責任との違いについて時々、お客さんからご質問があるので一応、説明しておきます。まあ、過去の規定ですので、これから不動産の売却をしようとされる方は気にする必要ないです。

現状渡しのトラブル回避策

不動産の現状渡しによるトラブルを回避するための方法としては以下のようなものがあります。

①不具合・故障について正直に伝える

売主さんが知っている不動産についての不具合・故障などについては契約成立時までに必ず、買主さんに伝えるようにして下さい。

事前に伝えておけば、そのことを前提として売買契約が締結されることになりますので契約内容不適合責任を追及されることがなくなるからです。

もちろん、不具合や故障などについて正直に伝えれば、価格交渉の材料にされるかもしれませんし、場合によっては購入を見送られてしまうかもしれません。

それでも事後的に契約内容不適合責任を追及されることになるよりは経済的な意味においても精神的な意味においても、よほど良いと思いますので不動産の不具合・故障などについては買主さんに正直に伝えることを強くおすすめ致します。

家売左

買主さんは今後、その家に住むことになるわけですから、不具合や故障について、いずれ気づきます。また、その際には売主さんが知らなかったのか、それとも、知っていて黙っていたのかは大体、検討がつくものです。無用なトラブルを避けるためにも知っている不具合や故障については正直に洗いざらい、買主さんに伝えるようにして下さい。

②契約不適合責任を排除する特約をおく

これについては既に上でも説明させてもらったとおりです。

通常、一般の方が売主となる売買契約を締結する場合、特に売主から申し出がなくても不動産屋の営業担当者が勝手に契約不適合責任を排除する特約を入れてくれるものですが、営業担当者があまり優秀な方でない場合、うっかり失念してしまうことも考えられます。

その場合には「契約不適合責任を排除する特約を入れて下さいね。」とお願いするようにして下さい。

③物件状況確認書や付帯設備票に詳しく記載する

不動産の売買契約を締結する際に不動産の現況を買主に伝えることを目的に売買契約書の添付書類として物件状況確認書(物件状況報告書)および付帯設備表という書類を取り交わします。

この物件状況確認書や付帯設備票は項目が結構、多くて記載するのが大変なのですが、故障個所などを買主に正確に伝えるべく、なるべく詳しく記載するようにして下さい。

物件状況確認書や付帯設備票を詳しく記載しておけば事後的に買主から何らかのクレームがあった場合にも、たとえば「物件状況確認書の中でお伝えしていますよね。」などと抗弁することができます。

なお、物件状況確認書や付帯設備票の記入項目について、その意味や記載方法がわからない場合、必ず、不動産屋の営業担当者に尋ねるようにして下さい。

よくわからないからといって適当に記入しておくと後々、大変な後悔をすることになりかねませんので。

家売左

物件状況確認書等は契約当日までに不動産屋から受け取って、実際に建物をチェックしながら記入されることをおすすめします。自宅と言えども、あらためてチェックしなければ気付けないような不具合や故障個所もあるはずですので。

④インスペクションを受ける

インスペクション(ホームインスペクション)とは建物状況調査のことです。

屋根裏や床下などの目視することができない建物内部の状況については売主と言えども、よくわからないというのが実際のところだと思います。

そこで建物引渡し後に買主からクレームを受けるようなことを防ぐべく、建築士などの建物のプロの力を借りて建物の詳細な状況について事前に把握し、その状況を踏まえて不動産の売却を行おうということです。

ただしインスペクションについては費用がかかることですし、また、契約不適合責任を排除する特約をおくと共に物件状況確認書への記載をしっかりと行っておけば、建物引渡し後のトラブルはほぼ避けることができるはずですので、さらなる安心を確保したいという場合に限って利用を検討して頂ければ十分かと思います。

まとめ

  1. 不動産売却における「現状渡し」とは、不動産を売却する際に、売主が不動産をそのままの状態で買主に引き渡すことを言う。
  2. 売主にとっての現状渡しの最大のメリットは、ずばり手間がかからないことである。
  3. 売主の側から見れば現状渡しのデメリットは、基本的にはない。
  4. 契約不適合責任とは引き渡された目的物が種類・品質・数量などにおいて契約の内容に合致しない場合に引き渡し債務者が負うことになる責任のことを言う。
  5. 引き渡した不動産が契約の内容に合致しない場合、売主は買主から以下のような方法で責任追及される可能性がある。
    ①修補請求(追完請求)
    ②代金減額請求
    ③損害賠償請求
    ④契約解除請求
  6. 宅建業者や事業者でない一般の売主の不動産売買契約における契約不適合責任は特約で排除することができる
  7. 不動産の現状渡しによるトラブルを回避するための方法としては以下のようなものがある。
    ①契約不適合責任を排除する特約をおく
    ②物件状況確認書や付帯設備票に詳しく記載する
    ③インスペクションを受ける

以上、今回は不動産を売却する際によく用いられる「現状渡し」という言葉について紹介させて頂きました。

ご参考になれば幸いです。